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獣の遠吠えと思われる音色が、スピーカーから聞こえてきた。それも一つではない。最初の遠吠えに呼応するように、いくつも、いくつもの声が唱和して。それが異様なものであることは、Xや私のようなこの『異界』について何も知らない者以外にとってもそうであったらしい。隣の部屋から戻ってきた少女も、顔を青くして言う。
「今の、何?」
「遠吠えのように聞こえましたが」
続けざまに、かんかん、という甲高い音が響く。確か、街の真ん中に確か鐘が下がった櫓があったな、と思い出した次の瞬間、窓の外から大音声が響いた。
「みんな、家の中に戻れ! 獣だ、獣が集まってくる!」
「何故だ、火が、煙が、効かない……!」
「扉と窓を閉めろ、家に入らせるな!」
小さな街は、一瞬にして混乱に包まれた。外では、松明を持って獣を追い返そうとする男たちの声が徐々に悲鳴に変わっていくのがわかる。
少女とその両親も窓を閉め、身を寄せ合って震えることしかできないようで、Xはそんな少女たちを一瞥したのちに、のそりと動き出す。
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