悪魔ではなく

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「ど、どこに行くの?」  少女が震える声で問いかけてくるのに対し、Xは軽く包帯を巻いた肩を竦めてみせるだけで、答えなかった。代わりに「すぐ扉の鍵を閉めてください」とだけ言い残して、無造作に家の外へと歩み出る。  ディスプレイ――つまり、Xの視界いっぱいに広がった情景は、窓に切り取られて見えていた情景よりも、よっぽど酷かった。地面に落ちた松明が、暗くなりゆく世界にかろうじて明かりを灯し、倒れた人間たちを食い荒らす獣たちを映し出している。  その獣たちの目が、新鮮な「餌」であるXに向けられる。それらは言葉通りに飢えた獣の目をしており、まだまだ物足りないのだと語っている。Xはそのまま森の方角に向けて駆けだす。その場にいた獣たちは反射的に動く獲物であるXに追従する。  そのまま、獣たちを街の外まで誘導しようというのか。無謀としか言いようがない。おそらく、X自身それをわかっていながら、それでも、そうせずにはいられなかったのだろう。  いくらなんでもXの足が獣より速いわけもなく、飛び掛かってくる獣の爪が、牙が、Xの体に食い込む。包帯が解け、できたばかりの傷口があらわになる。それでも、Xは走ることを止めない。いつの間にかサンダルは脱げ、靴下だけになっていたけれど、構わず走り続ける。  追いすがる獣の数は増えるばかりで、獣の体当たりを受けてXはよろめく。がくりと速度が落ちたところで獣たちがXに殺到し、その体を引き裂かんとして――。
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