悪魔ではなく

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 Xが降り立った座標は当初の森から少しずれて、街の中であった。  辺りを見渡してみると、獣の蹂躙の痕跡はすっかり消えていて、青空の下に明るい街並みが広がっていた。  街中に突然現れたXに、辺りを歩いていた人々はぎょっとした顔を向け、そそくさと逃げ去っていく。街の人に話を聞こうと思っていたのだろうXは上げかけた手を下ろして、ふらふらと歩き始める。  まるで、昨日の出来事などなかったかのような街。もしかするとよく似た別の『異界』に迷い込んでしまったのか、と私も思いはじめたその時だった。 「おい、そこのお前……!」  声をかけられて、Xはそちらを振り向く。そこには一人の男が立っていたが、その男には見覚えがあった。確か、少女を助けに入った時に、駆けつけてきた男の一人だ。  だが、あの男はこんなにも、老いていただろうか?  明らかに昨日見たときよりも皺が増え、髪も失われているその男は怒りと恐怖とをないまぜにした顔でXを見据える。 「ああ、隻腕に、その目、その顔。間違いない」  じり、と男が一歩下がり、ヒステリックな声を上げる。 「また、獣をけしかけに来たのか! 悪魔め!」
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