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白い、靴? ヒュウヒュウと鳴る胸をおさえて靴から辿ると、暗闇訛りの声の主は全身真っ白な燕尾服に身を包んだひょろ長い男だった。丁寧にお辞儀している。
「申し遅れました私、キラキラパァツ専門店の店主スパン・コ・オォルと申します」
「キラキラ、パーツ?」
丁寧に口角をあげるも、顔全体はよく分からない。店内が薄暗いのもあるが、どうやらモヤの魔法をかけているようだ。初めて間近に見る魔法を思わずじっと見つめてしまう。
「お客様もしや、こちら側は初めてで?」
やっと整えた息で「ええ」と漏らすと店主は口角を引き上げた。
「それはそれは、ご旅行か何かでしょうか? 最近闇ルゥトでの見学会が流行っていると伺ったもので」
「いやその……はい、このお店に来たくて」
いやその、が裏返る。再び目が合うと「さようでしたか」と口角をあげ直した。
暗闇の世界と昼間の世界。魔法の代わりに太陽を取り上げられた暗闇の存在こそ周知でも、安易に行き来できないのが今の世の中の決まりだ。
「ではご存じでしょうか、こちら側は暗闇の世界。普段はあなた様のような昼間のお方は入れません。香水はつけてきませんでしたか?」
思い起こせば招待チケットとともにちいさなスプレーが入っていた。蓋を開けると変な匂いだったので「つけなくても大した害はない」という闇サイトの書き込みを信じて放っておいたのだ。
「つけて、ません」
「なるほど。では良いと言うまで息を止めておいてください」
理由を聞く隙も与えない圧力を感じて言われたとおり息を吸い、止める。私の様子を確認してシャッと輝くスーツが横を通り過ぎた。
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