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振り向くと閉めたはずの扉にはぎゅうぎゅうと黒い物体が挟まっている。目を赤く光らせ、よだれを垂らす有象無象の輩たちだ。私を掴もうと腕を伸ばしている。ひっ、と声を上げそうになるのをなんとか耐え両手で口を塞ぐ。
「皆さんどうぞ速やかにお帰りくださいませ。お客様以外は私、容赦いたしませんよ」
輩には店主の声など届いていないようだ。そのうち大柄の輩がぐんと乗り出して店の扉にヒビが入った。瞬間、真っ黒な首がゴトリと床に落ちていく。
「ひいいっ」
「息をお止めに。当てられますよ」
抑えきれなかった声を諫めながら、店主は輩から目を離さない。
「お帰りになるどころか我が店を壊し汚すとは。さあ、お引き取りを」
すっと右腕を振りかぶり空中へ風を切る。びゅおっ、とさほど大きくない音を立てて輩は全て闇の向こうへ吸い込まれていった。
「ご安心ください。もう息をしてよろしいですよ」
ぷは、と呼吸を再開するも立ち上がれない。「おやおや」としゃがみ、店主は同じ目線になった。
「輩の姿が見えるとは、こちら側の素質がありますねえ。ですが香水をつけてこなかったのはルゥル違反。あのまま輩にくれてやる選択肢もあったのですよ」
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