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「お客様、嘘をおつきでしょうか? お探しの対象が嘘の場合、暗闇の住人へ一歩近づいてしまいますがどうでしょう?」
歓迎しますよ、と付け足す。
「年もとらないし、魔法も使える。昼間の世界と比べ欠点はいつでも暗闇ということだけ。まあ他にも不可思議なことは数多、疑問をもつより受け入れるしかありませんが――」
「ち、違います! 親を亡くして落ち込んでいたときに助けてもらったお兄さんで、命の恩人で。だから親しみを込めて兄と言っただけです。嘘なんかじゃありません!」
早口な説明になんとか訂正を入れると「ふむ」と店主は椅子にかけ直す。
「確かに、嘘ではないですね。失敬失敬」
「それで兄は……お兄さんは見つかるのでしょうか?」
「難しい、と言ったら?」
どうします、と聞かれて俯く。
「……でも、できるんですよね?」
顔をあげても店主の表情はよく見えない。
「難しい、ということはできるんですよね?」
「ええ、でも担保が変わります」
「変わるって……身体の一部だけでは足りないの?」
おや、とまた口角をあげる。
「確かに私たちが求めるキラキラパァツの原料は身体です。特に稀少な昼間のお方の。しかし最も輝くのは身体ではない」
すっとスーツのジャケットに手をかけてめくる。まばゆいほどの白い光が目に飛び込んできて思わず目を細めた。
「まあ、私もおいたしましてね。この有様です。生きてるだけで万々歳ってとこですね」
光っている場所はちょうど心臓。それを担保として差し出せというのか。
「この場合は担保ではなく代償ですが」
「そんな……」
せっかくここまで来たのに。続きを言えずに黙ってしまった。静まった部屋に時計の針音が響く。心臓の鼓動が秒針をゆうに追い越す。あれ、時計なんかあったっけ。
「ありますよ」
え、と顔をあげる。
「お客様が考えているのとは別の方法です」
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