キラキラパァツ専門店へようこそ

9/13
前へ
/13ページ
次へ
 パンパン、と店主が手を叩けば何もないと思っていた壁紙に鳩時計が現れる。小さな扉に指を入れ、器用に鳩人形だけを取り出した。人差し指ほどの大きさで玉虫色だ。 「この鳩が本当にお兄さんを探してくれるのですか?」  ええ、と鳩人形を両手で包む。ぎゅっと力を込めるとバササと音が聞こえてきた。ゆっくり広げると、店主の手の上で鳩がキョロキョロと目を動かしている。 「生きてる……」 「代償は過去へと旅立ったあとで結構です。鳩は優秀ですからねえ、きっとまた元の場所へ戻してくれますよ」  不確かな希望だ。無事に帰れる可能性は五分五分といったところだろう。 「はあ、本当によろしいのでしょうか。心配という感情が芽生えてきました」  心配を微塵も感じさせない口元で最終確認をしてくる。  特別ですよ、と教わった方法の代償は【感情】らしい。方法だけが記されていて店主も経験がないため、たとえ帰ってきて人助けをしても感情が戻ってくるとは限らない。だから普段はキラキラパーツを担保というけれどこの場合は代償だとか。とにかく、お兄さんを見つけ出せたら何らかの感情をとられるのだ。 「かまいません。やります」  なるほど、と口角をあげる。店主の口元は常に弓なりだ。 「そうそう。もし過去の自分に接触する場合、バレると帰り道に支障をきたします。このオリィブを飲んでください」  オリーブの実を三粒、鳩時計の隙間から取り出し、ピンクのリボンが付いた小瓶に入れてくれる。 「一粒で一時間、正体を隠せますから」  こんな風に、と自分の顔を指差す。モヤの魔法ってことか。 「といっても効果は徐々に薄れます。三粒目は慎重に」 「わかりました」 「恐ろしいですか?」  少し、と答えれば店主は「恐ろしいという感情はどんなものでしょう」と胸に手を当て口角をあげた。 「私にはよくわかりませんが、お見送りだけはさせていただきます。では良い旅を……」  店主はふうっと鳩に息を吹きかける。時折羽ばたこうとバタついていただけの鳩が大きくなり、辺りも巻き込んで風の渦になる。 「いってきます!」  叫んだが、届いたかはわからない。にこやかに手を振る店主の姿も見えなくなってくる。 「くるっぽ!」  鳩がひと鳴きして、身体がふわっと宙に浮いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加