雨粒が年々大きくなる話と柔らかい猿の手の話 〜愛の深き淵より〜

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雨粒が年々大きくなる話と柔らかい猿の手の話 〜愛の深き淵より〜

ねぇ、覚えてる? もし私が私を演じる女優であったなら 私の涙は 天然真珠より粒の揃った 紅くて透明な水滴なのよ 貴方を愛してるけど 私は貴方を殺したのよ もう忘れてるでしょうけどね 雨は年々大粒になるわ 雨粒大から握り(こぶし)大へ そして西瓜(すいか)のように大きくなって 遂には人よりも大きくなって 局所豪雨の時は 人を襲うのよ 狙い撃ちだわ ねぇ ダーリン 私を見て 私を感じて 窓の外では 大きな雨に狙われた人たちが 溺れ死んでいるわ 人工呼吸なんて無駄なの 雨は次々と集中攻撃するのよ わかって? 大空が冷凍庫より冷たいと 巨大な(ひょう)が落ちてくるの 狙われた人は 頭が割れて簡単に死ぬわ ダムダム弾より強力なのよ そうでしょ 柘榴(ざくろ)のような頭を持った人 貴方よ 男運が悪いとは言うけれど 女運が悪いとは言うのかしら? そんな人がいるとしたら 生きていた時の貴方ね そうそう 表題に柔らかい猿の手が出てくるわね 忘れてたわ 貴方の顔を忘れるのと同じことよ 猿の手のミイラが 三つだけ願い事を叶えてくれるの でも願い事を言ったひとは 必ず不幸になるの 呪いがかかっているのよ 貴方 ねぇ ダーリン 私を愛して 海底の骨片たちのように 柔らかい猿の手のように でないと貴方の骨を 細かく砕いて 水に流してしまうわよ わたしは自由なの わかってちょうだい 家族運の悪い人  どうしようもないわね 育つことはどうでもいいのよ 朝のコーヒーか流れた血程度の価値しかないわ でも貴方は生まれ そのずっとあとで 私が生まれ ねぇ、覚えてる? 私たちは一緒になったのよ 今でも信じられないわ 信じていないけど もし海の底に 貴方の骨のかけらがあるならば わたしは綺麗な人魚になって 貴方を拾いに行くわ でも深海よりも深いところに 貴方はいるの だから 切なくて でも 嬉しいのよ 貴方が私を忘れてくれたから 私は世界で二番目に幸せ 一番は貴方 何故ならば あなたはもうこの世にいないからよ さようなら 私は鏡の向こうに行くわ 貴方は水の底がお似合いよ ねぇ、覚えてる? 私の紡ぎ出した言葉たちを ダーリン 愛していたわ それも今は昔
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