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私の背中に羽根をくれた人
初めてあなたと抱き合った日のことを、私は思い出せない。最後に抱き合った日のことも、まったく思い出せない。記憶に残るのは、中途半端な時期のことばかり。
あなたは、生まれて初めて、私の身体をきちんと抱いてくれた男だった。それまで出会ってきた男はみんな乱暴で、自分が気持ちよくなることしか考えていなかった。ことさら痛い目に遭ったわけではないけれど、丁寧だったわけでもない。男なんかその程度だと思うしかなかった。
あなたの口ぐせは、「沙羅が好き。ほんとに好き。大好き」だった。まるで子どものようだ。「沙羅、そばにいて。遠くに行っちゃだめ」と、母親に訴える男の子のようなことばかり言っていた。少しだけ年下のあなたは私にとって弟みたいなもので、それなのに、あまりにも男だった。きっと本当に、私のことが好きだったのだろう。
私は初めて、男と抱き合うことに、充足を感じた。「沙羅、沙羅」と呼ばれることに、喜びを感じた。あなたの唇が私の背中を伝うとき、まるで背中に羽が生えているような気持ちになった。くすぐったくて、気持ちがいい。あなたの唇は、私の身体を自由にしてくれた。どんな姿勢をとってもいいし、どんな格好でも許してくれた。何も飾らなくてよかったし、何もごまかさなくてよかった。
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