真夜中のエギンガー

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 暗い夜道を、二台の自転車が颯爽と走り抜ける。  高鳴る胸を抑えることもなく、取り憑かれたように一心不乱にペダルを漕いで二人が向かう先は、いつもの漁港にある防波堤だ。  四月になると、イカ釣りのシーズンに突入する。二人の狙いは、イカの中でも釣りやすい、コウイカだ。  捌くのも簡単なうえに、煮て良し、焼いて良し。刺身にしても良し。  食べきれなくても良い。イカは、冷凍保存しても味が落ちにくい。  貧乏な大学生の笠井と宮田にとって、これほどのご馳走は、他にはない。  イカは夜に釣れることが多い。しかし春の始めは風が強く、夜間も冷えることが多い。そんな中、時折訪れる風のない穏やかな夜は、翌朝の講義を欠席してでも出陣するべき戦場だ。  釣竿には、既にリールが装着してある。前カゴには、保冷剤と一緒に袋が入っている。  大きめサイズの、真っ白なビニール袋だ。  風を受け、バサバサと風に揺れる音とともに、笠井が声をあげる。 「帰る頃には、この袋もイカ墨で黒く染まっているだろう!」  宮田はゆっくりと(うなず)き、声を張り上げる。 「今宵は、夜明けまで竿を立て続けようぞ!」
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