真夜中のエギンガー

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 街を抜けた先にある漁港までは、街灯もまばらで、自転車のライトだけが頼りになる。  民家も人の気配もない場所に設置された青い街灯は、人の心を穏やかにするらしいが、笠井の心には荒波を立てた。 「今宵の餌木(えぎ)の色は、青からいこうか!」 「なぜに?」 「街灯を見よ! 神のお告げだ!」 「なんて安易な奴だ!」  イカを釣るために餌はいらない。餌木というカラフルな擬似餌(ぎじえ)で釣りあげる。その豊富なカラーバリエーションの中から色を決めるのは、釣り人のセンスだ。  笠井はそれを、あっさりと決めた。  街灯の数も次第に減り、ほんのりと潮の香りが漂ってくる。  大きく開けた船着き場を、背の高い一本の街灯が照らし出す。その白い光に吸い込まれるようにペダルを漕いでいた二人の足は、ピタッと止まった。  先客だ。それも、二十人近くがひしめき合うように海へと竿を伸ばしている。入る余地は無さそうだ。  しかし、それは釣れるということの象徴のようでもある。 「どうする?」  笠井は舌打ちをすると「ダメだ! 密だ!」と叫び、再び足に力を込めた。
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