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髪の毛がまだ少し濡れたままのアキが、緩い紺の寝間着姿に片手にポリ袋と言った、アンバランスな恰好で居間の中に入ってくる。
居間と言っても、タクの住む場所は一人暮らしの男性には最適な部屋で、台所と炬燵とテレビで殆どの空間は埋まってしまっていた。
「お待たせ」
アキは居間のドアを開けると、部屋の真ん中にある炬燵の方向に真っ直ぐに向っていく。
「お疲れー炬燵あったかいぞ」
アキが炬燵に近づくと、先に炬燵の中に入っていたシュウが楽しそうに笑顔を浮かべて、炬燵の横をパンパンと叩く。
アキがその音につられて炬燵の方に視線を送ると、炬燵の上には見るからに新しい土鍋とガスコンロが置いてあり、アキはキラキラと目を輝かせて炬燵に近づいていく。
「これが言ってた土鍋か!」
「そうそう。二人ともビールで良いよな」
「うん。ありがと」
冷蔵庫の中に手を伸ばしながら質問するタクを横目に、アキは炬燵に足を入れながら土鍋をジッと見つめていた。
土鍋の中では少し透き通った茶色の汁がグツグツと揺れながらガスコンロの小さい火に当てられていて、真上にあるライトの反射でキラキラと輝いていた。
「皆そのまま入れられるもの買ってきてるよな?」
冷えた三本のビールと白いポリ袋を持ってきたタクは、やっと席に着く。
「俺は大丈夫だよ」
タクがそれぞれの席に缶ビールを置いている間に、シュウはカバンに手を伸ばして、その中からこれまたポリ袋を取り出す。
「俺も……うん!大丈夫」
アキは濡れたポリ袋の中身を他の人に見えないように確認すると、半笑い気味な顔をして元気に返事をする。
「じゃあ、早速だがやっていきますか」
「おーー!」
「いや、先に乾杯だけしとかね?怖いし」
「ああ、それもそうだな」
タクは立ち上がりやすいようにその場で屈むと、缶ビールのタブを持ち上げてカシュっと音をならす。
それに習う様にして、炬燵でゆっくりと座っていた二人もビールを開けて軽い音を立てる。
「それじゃあ、カンパーイ」
「「カンパーイ」」
三人はカツンと缶をくっつけると、そのままゴクゴクと音を鳴らしてビールをのどに流し込こんでいく。
「それじゃあそろそろ電気を消すから気を付けて入れて行けよ」
「了解」
シュウの了承の声を聴いたタクが部屋の電気を消して、真っ暗な部屋の中でガスコンロの青い光だけを残す。
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