【短編】闇鍋

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 タッタタッタ。  大雨の夜中。ビニール袋を手に持った二十代後半くらいの大男が、逃げるように街灯から街灯へと一心不乱に走り抜けていた。 「……来たか」  カンカンと鳴り響く鉄階段の音を聞いてそう言ったのは、これまた二十代後半の男で、男はニヤリと不敵に笑うと、温かな部屋の中で炬燵から立ち上がり玄関に向かって歩き出す。  男の行動に反応するように鳴ったピーンポーンと気の抜けたインターホンが部屋全体を駆け抜けて、男は直ぐさま玄関のドアを開ける。  ドアを開けると、そこには先程夜道を走っていた大男が現れるが、その姿は酷いもので、雨に濡らされた髪やスーツからポタポタと水を滴らせ、膝に両手を突いて荒い息をしながら肩を揺らしている姿だった。 「おつかれ。とりあえずタオル持ってくるから玄関で待ってろ」  男は苦笑いを浮かべてそう言うと、大男の荷物を受け取って部屋の中へと誘導する。  息を切らせたままの大男が誘導に従って部屋の中に入るのを確認すると、男は玄関から直ぐ側の風呂場からバスタオルを一枚とって、大男の頭の上に掛ける。 「着替えも必要か」  男は大男の姿を見てそう独り言を呟くと、客人であるはずの大男を玄関に残したまま、着替えを取りに奥にある寝室まで戻っていく。  家主が廊下を通り抜けて、その姿が見えなくなった頃。大男はやっと息を落ち着かせて、見えないはずの男に向かって声をかける。 「来て早々ごめんな。タク」 「良いよ。どっちかはこうなるかもって思ってたしな」  タクと呼ばれた家主の男は、タンスの中から大男が勝手に置きっ放しにしている彼のパジャマを取り出しながらそう答えると、玄関に居る大男が申し訳なさそうに力ない笑みを浮かべる。  大男が玄関でタクが着替えを持ってきてくれるのを待ちながら、タオルで頭を乱暴にかき乱して乾かしていると、また扉の外から鉄階段がカツンカツンと踏まれる音が聞こえてくる。  ゆっくりと歩くその足音はこの部屋の前で止まり、少しの間を置いてからチャイムを鳴も無く、ガチャリと音を立てドアが開く。
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