水曜日

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 どうしてみんなこぞって彼に距離を置きたがるのか。実はそれは、外見ばかりが原因ではなかったのだ。  斉藤くんは一年生の時にあるサークルで事件を起こして、今も出禁の状態が続いている。なんでも同じサークルに所属していた女の子にしつこくつきまといや嫌がらせを繰りかえしていたらしい。全員そのことを知っていたのだ。 「結城さん!」  今日の結城さんはブラックスーツに身を包んでいた。腰の位置が高い上、足も長いのでとてもよくにあっていた。バーガンディとホワイトのストライプ柄のネクタイが目に鮮やかで、スーツ特有の堅苦しさはまったく感じなかった。 「また急いでるみたいだね。なにかあった?」 「じ、実は、犯人の――」  そうだ。いつどこで会話を聞かれているかわからないのだ。下手なことを大きな声では言えない。  こちらへ顔を近づけてもらえるように、私は結城さんに小さく手招きをしたあと、 「もしかしたら犯人がわかったかもしれないんです」  と、その耳もとに囁いた。 「本当に」  私は黙って頷いた。   眼鏡のむこうの丸くて黒目がちな瞳が、驚きで大きく見開かれる。彼は顔を上にむけると、腕を組みながら少しの間宙を見つめていたが、 「僕も話したかったことがあるんだ。でもここだとお互いに話しにくいだろうし、場所を変えようか」  この間の喫茶店にでもという結城さんの声と、じゃあ家に来ませんかという私の声が同時に重なった。
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