水曜日

4/7
前へ
/35ページ
次へ
  「開いたよ」 「わ、すごい。ピッキングってやつですね」 「いい子は真似しちゃだめだよ」  結城さんはそう言いながら片目を軽くつぶった。一見キザとも取れるその仕草も彼がすると素敵に感じられるから不思議だ。それにしても、ピッキングを易々とこなしてしまうなんてさすがは探偵だ。いや、違うか。私は探偵をなんだと思っているんだろう。きっと小説やドラマの見すぎだ。 「飲み物用意しますね。なにがいいですか」 「じゃあ、紅茶で」 「わかりました」  結城さんを自室に通し、自分はキッチンへむかった。  実は結城さんを家に誘ったのは、もう一つ理由がある。お菓子を作りすぎてしまったのだ。不用意に外に出るのは危ないから帰宅してからずっと家の中にこもっていたのだけれど、あまりにも暇だったからマドレーヌを焼いていたのである。そうして気づけば、つい何十個も大量生産してしまっていた。砂糖とバターがたっぷり入っているため、一人ですべて食べきるにはカロリー的な意味で恐ろしすぎる。  マドレーヌをレンジに入れる。次いで薬缶を火にかけた。戸棚から来客用の花柄のティーカップを二つとポットを出してきて、引き出しの中のティーバッグが入っている容器に手を伸ばした。そこでふと私の動きが止まった。  紅茶、どっちにしよう。  私自身、飲めればなんでもいいのでいつも気にしていないのだが、この間家から送られてきた宅配便の中に野菜や日用品と一緒に、紅茶の缶が二種類入っていた。なんでも親戚が海外旅行のお土産にとくれたそうなのだが、両親はコーヒーしか飲まないので私のところへやってきたというわけだ。  アールグレイとダージリン。正直、味の違いもあまりわかっていない。ああ、でも、そういえばアールグレイは香りが強いと聞いたことがあるから、せっかくのマドレーヌのバターの匂いがわかりづらくなってしまうかもしれない。よし、ダージリンにしよう。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加