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「いや、なんの紅茶の種類の味かわかるんだなって。アールグレイも家にあるんですけど、私違いが理解できてなくて」
「ああ、なるほど。木崎さんと初めて会った喫茶店があったでしょう。事務所が近いからお昼とかによく行くんだけど、あそこのマスターが紅茶ソムリエの資格を持っていて、前に利き茶のコツを教えてもらったんだ」
「へええ。やっぱり探偵さんってすごいんですね」
「すごいって?」
「だってピッキングはできちゃうし、紅茶の味も当てられるし」
「それは多分探偵とか関係ないと思うけどなあ」
結城さんが軽く笑いながらお皿からマドレーヌを取った。一口かじって、バターの香りがいいねと呟く。
よかった。誤解が解けたみたいだ。安心した私もマドレーヌに手を伸ばした。
「それで、ストーカーの犯人がわかったかもしれないって言ってたけど、詳しく教えてもらってもいいかな」
「ああ、そうでしたよね。実は――」
呑気にティータイムモードに突入してしまっていたが、現状は急を要しているのである。
私は斎藤くんのことと、どうして彼が犯人だと思ったのかということを手短に話した。
なるほど、と結城さんは一言呟くと顎に手を当てて考えこむそぶりをした。しばらくはそのまま沈黙を守っていたが、やがて口を開いて、
「たしかに考えてみる余地はあるかもしれないね。明日は彼をはることにしてみるよ」
私はその結城さんの言葉に瞬時に違和感を覚えた。明日。明日は、ってどういうことだ。
「あの、結城さん」
「うん」
「明日は、って……」
「ああ、実は今日木崎さんの大学に行ったんだよ。封筒に入っていた写真を見せてもらって、学校にいるときに隠し撮りされてた物がほとんどだったから、他の生徒や先生が怪しいんじゃないかと思って。そういえば僕食堂でお昼ご飯食べてる木崎さんを見てたんだけど、全然知気づいてなかったでしょ」
結城さんが悪戯気に笑う。
驚きのあまり私は言葉を失った。間抜けにも口があんぐりと開いてしまう。
だって、結城さんみたいな人がいれば目立ってさすがの私でも気づかないはずがないのだ。昨日みたいに。絶対に周囲がざわざわし始めるに決まっている。
私は自分を落ち着けるために紅茶を一口飲んでから、絞り出すように、
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