プロローグ

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 今朝、アパートの共同ポストをのぞきにいったら、中に大きな茶封筒が一つ入っていた。なんだろう、と思う。見ただけではわからない。なんの変哲もないただの茶封筒だ。  私はおそるおそるそれに手を伸ばして、掴んだ。取り出す。 ぐるぐる回してみても、ここの住所もなにも書かれていなかったので、おそらく差し出し人が直接ポストに投函したんだろう。その差し出し人は多分、いやきっと、ストーカーに違いない。  意外と封筒は重たくて、軽く振るとがさがさ音がした。大量のなにかとなにかが擦れあうような乾いた音だった。  嫌な予感がした。それはある意味確信とも言えた。この封筒になにが入っているかは、見てみなければわからない。けれどそのなにかが、私の人生を一気に狂わせてしまうであろうことはすでにわかっていた。  どっと汗が背中に湧いてくるのを感じながら、私は慌てて踵を返した。一秒でも早く自分の部屋に戻りたかった。そのままものすごいスピードでアパートの階段を駆け上がる。足音が響くのなんてもう気にしていられなかった。  震える手は言うことを聞いてくれず、扉の鍵を開けるのに苦労した。混乱。焦り。恐怖。よくホラー映画などでゾンビや殺人鬼から逃げている登場人物たちはいつも感情に苛まれているんだろうかと、ぼんやりとしてくる頭の片隅で思った。
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