プロローグ

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 ようやく鍵が開けられると、滑りこむみたいにして中に入った。すぐにうしろ手で鍵とチェーンロックをかけた。  ほっと息をつきかけて、私は自分が今左手に握っている物のことを思い出した。宛先も差し出し人もなにも書かれていない謎の茶封筒。意外と重く、振ると乾いた音がする。  糊づけされていた封入口を爪で慎重に剥がしていく。中身を見たくないという気持ちと、たとえ嫌であっても見るべきだという気持ちの相反している二つが衝突しあっておかしくなりそうだった。心臓の鼓動が馬鹿みたいに早くなっていく。  しかし私は次の瞬間には封筒を逆さにして、その中身を廊下の床に、ぶちまけていた。出てきたのは写真だった。私の、私だけが映りこんだ写真。隠し撮りだろう。全て微妙にピントがずれている。  散らばった写真たちをしばらくぼうっと見下ろしていたが、外から聞こえてきたカラスの鳴き声で私は我にかえった。しゃがんで封筒の中に次々と写真を戻していると、一片の紙切れが紛れていたことに気づいた。なにか書いてある。 「……これから一週間ののち」  僕は君の前に現れる。  あまりにも恐ろしいそのメッセージを、最後まで口に出して読むことは憚られた。ふっと足の力が抜けて膝頭を強く玄関のタイルにぶつけた。痛かった。でも、今一番痛いのは、心だ。
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