プロローグ

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 再びぼんやりと霞みがかってくる頭で、そうだ警察に電話しなきゃと考えられたのは我ながら偉くはなかっただろうか。ゆっくりとサンダルから足を抜き、とても立って歩けそうにはなかったので半ば這うようにして自室にむかった。  床にべたりと体をつけたまま、腕だけをベッドに伸ばした。数回彷徨ったのち、指先が携帯に当たった。素早く掴んで画面が見える位置まで持ってくる。  ロックを解除するのすらもどかしく、緊急電話でかけることにした。けれど、一一〇の三桁の数字をいざ押そうとした瞬間、そういえば警察の人になんと言ったらいいのだろうかという疑問が脳裏をかすめた。その瞬間、嘘みたいに指の動きが止まった。  お願いです、助けてください。私、ストーカーされてるんです。今日変な手紙が届いて、私襲われるかもしれないんです。殺されるかもしれないんです。  ストーカー被害にあっていても、警察はなにか決定的な証拠がない限り動けない。いや、動いてくれない。何度もテレビのニュースやワイドショーで話題に上がっていたのを見たことがあったから知っている。    たしかに、無言電話や郵便物の紛失、誰かの強い視線やあとをつけられている感じを覚えることはもはや日常化してきていると言っても過言ではない状況だが、証拠はないのだ。 
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