プロローグ

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 無言電話に嫌気がさしたので、実は数日前から線を抜いていて、録音したものもなかった。郵便物については、きっと私が「最近ポストを見てもなにも届いてないんですよ」と訴えたところで、説得力があるかどうかは怪しい。そして気配を感じているだけで、ストーカー相手を実際に目にしたことは一度としてない。だから当然写真や動画などもない。  茶封筒に入っていた手紙も「僕は君の前に現れる」としか書かれておらず、証拠とするにはいささか脅迫性が弱いようにも思った。  しかし、私が警察に電話することを躊躇ってしまった理由はもう一つ存在した。  私は進学を機に、地方を出て東京の大学に入った。だから大学の最寄り駅へ数十分で行ける場所にあるアパートで一人暮らしをしている。けれどそれは、すべて私が父と母を説得した上で現実にできたことだった。一人娘を家から出したくなかったのかもしれない。結局許してはくれたものの、私は未だに彼らがまだ心から納得してくれていないことはなんとなく知っていたので、警察にストーカー被害を訴えることで両親に連絡が行ってしまったらという懸念があったのだ。  学生の一人暮らしなのに家庭電話が引いてあるのも両親の意向だった。まるで抜き打ちみたいに、数日に一度時間はその時々で電話が実家からかかってくるのである。ちゃんと家に帰っているか、ということを確認するために。ちなみに今は電話が故障中だと嘘をついている。
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