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「ちょ・・・ちょっと・・・何だよお前その気合いの入れ方・・ッ!―――――あー・・も、カンベンしてぇ。すげぇ笑えんだけど~」 「笑うなッ!――――だって僕、ひとの殴り方なんて知らないもん。それにそれにっ、僕のやり方が絶対一番痛いに決まってる!」 「―――あー・・・ウケる。なぁ翔太、見たかよ今の。こうだぜ?こう!ハラ痛ぇ・・・。――――いやぁ、怜。すげぇ気合い入ったろ?」 涙目で笑い転げる(勢いの)京助が、脇腹を押さえながら翔太と怜に聞く。翔太は「お前笑い過ぎ・・」と、尚の真似をして手を上げ下げする京助の腕を押さえつけ、少し気の毒そうに顔を真っ赤にしている尚を見る。怜は曖昧な表情のまま苦笑して緩く首を横に振り、「――――痛くない。・・・たぶんだけど・・・尚くんの手の方が・・・痛いと思う」と言った。 「―――い、痛くないっ!」ムキになってそう言った尚の手は、小指から手首の脇の部分が真っ赤になっていて、痛みがあるのだろう、熱を持った部分を冷やそうとするかのように逆の手でパタパタ風を送ったり、フーフーと息を吹きかけたりしている。 「――――はぁ・・・ハラ捩れっかと思った。だって尚・・お前・・・チョップとか、ありえねぇだろ。予想外過ぎて笑い死にしそうだ」 「うううう、うっさい、京ちゃん!」 ―――――という、従弟同士のちょっとしたじゃれ合い(笑)があり、「尚くんありがとう。俺、マジで気合入ったから!」と怜が嬉しそうに現場へ出かけて行き、そして冒頭の尚の言葉に戻るのだ。 「――――そーだな・・・。確かに尚の言う通りだ。俺がもっとしっかりしてなきゃいけなかったんだよ、絶対に。だから大いに反省してるよ。そりゃもう夜も眠れないくらいにな」 至極真面目な表情で京助はそう言ったけれど、尚は「反省?――――嘘だ。してないね絶対」と言い切った。 「――――眠れないなら一人で勝手に悶々してればいいのに、京ちゃん・・怜君も道連れにしたでしょ?ってか、どっちかっていうと眠れないってのは後付けで、単に・・・可愛がりたかっただけなんじゃないの?」 「――――は?何が言いたいんだ?」 「・・・うなじと鎖骨の痕!――――あんな堂々とこれ見よがしに残ってたら誰だってそう思うよ!京ちゃんのド変態!!」 「えー・・・そういうこと言う?変態とか?キツイねぇ尚は。――――あれは・・・だから、愛情確認だろうが。俺がどれだけあいつを・・こう・・求めているか?」 「うっさい!言い訳するな!!――――――大体ね、今日から久々に仕事戻るってわかってるのになんでわざわざ寝不足になるようなことさせるかな・・・。それこそ愛が足りないんじゃないの?」 「ばっか・・・お前。俺の愛情は相当深いぞ。そりゃもう聞いたらドン引きするくらいにな!―――つーか、俺だってそれくらいわかってるから昨夜はいつもよりだいぶセーブして・・・」 「じゅーぶんドン引きしてますー。京ちゃんの鬼畜ぶりに~!」 いつまでも続きそうな子供の(ような)言い合いを、いい加減にしろよと止めたのは翔太。 「――――お前ら!ここは家じゃねぇんだぞ!従弟同士の喧嘩ならウチ帰ってからやれよ!―――――つーか、京助。お前、何日仕事してねぇかわかってんのか?放ってる案件に早く手ぇつけろよ!尚も、10時から打ち合わせだろ。ちゃっちゃと準備しろ!」 「「――――はい。すみませんでした」」 ビクッと肩を竦めた京助と尚の後頭部を一発ずつ軽快な音を立て叩き、ふぅー・・と呆れきった大きな溜息を吐いた翔太は、何もなかったみたいな涼しい顔で再び自分の席で仕事を始め、京助は逃げるように事務所を出て社長室に籠り、尚も翔太を刺激しないようにそそくさと机に向かい仕事に取り掛かる。 かくして京助の、”怜が泣いちゃったら俺が助ける大作戦(仮)”――は、敢無く撃沈したのだった。
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