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「――――どんな理由があったとしても・・・、何も言わないでいなくなるのは卑怯だ!俺だってスゲー心配したし悲しかったけど、俺以上に・・・、もっと父さんはキツかったんだからな!俺たちに心配させないように、最初の2、3日はただの痴話喧嘩だって言ってたんだ。だけど仕事にも行かないで朝も夜もなく走り回って、メシも碌に食わないでまともに寝てもない・・・。そこまで父さんを苦しめてたのに・・・”戻るつもりはなかった”―――?ふざけんな・・ッ!」 じわじわと浮かび上がった涙を拭うことすらせず、(もしかすると泣いていることに気付いていないのかもと思うほど無頓着に)耀が怜に言葉を叩きつけるように怒鳴った。 京助が、「まぁまぁ、そんなに興奮するな」と宥め、真人にも、「それは怜さんが一番よくわかってるんだから・・」と窘められたけれど、それでも込み上げる(怒りなのか悔しさなのか、何れ複雑な)感情を抑えられないようだった。 耀は怜に向けた視線を外さない。怜も耀の鋭い視線から逃げなかった。 ふたりは暫く無言のまま奇妙な見つめ合い方をしていたのだが、唐突に耀の顔が顰められた。 怜の表情が、今この場面ではいちばん相応しくないもの――――嬉しそうな笑顔に変わったからだ。 「――――な・・・!何で笑ってんだよ。俺は、スゲー怒ってんだぞ!」 ムキになって食って掛かる耀の必死な態度に、尚も怜の笑みは消えなかった。 ただ嬉しそうに目を細め笑んで、けれど静かに音もなく涙を流していた。 そしていく粒か零れた涙の行方をじっと見つめていた怜の口から、吐息のような弱々しい言葉が発せられた。 「―――――わかってる・・・。もっと怒っていいよ、耀。あ・・えーと、ごめん。悪気があって笑ったわけじゃないんだ。やっぱり耀はいい子だな・・強い子だなって思って。――――――俺さ、今すごく嬉しいんだ。京さんに説教されて、綾子さん・・・お母さんにも叱られて叩かれて、んで、耀にも怒鳴ってもらった。もう長いことこんな風にめちゃくちゃに叱られるってことなかったから・・・親が、死んだ後、そういうの全部諦めてたから・・・、だから余計、嬉しいんだ。本当に俺、家族として受け入れられてたんだ、って。俺には戻る場所が、あったんだ、って―――――ごめん、ごめんな、バカなことして・・・。許してくれなくてもいいから、気が済むまで怒ってくれてていいから、・・・俺を、また家族にして、耀」 こみ上げる嗚咽を堪えながら苦しげに怜はそう言って、それでも浮かべた表情にはやはり喜びの感情がはっきりと映っていた。 耀は唇を噛み締め、色が変わるほど強くそうしてきつく瞼を閉じる。 堪えきれず厳しい言葉を投げつけてしまった後悔と、怜に対して小さな頃から持つ揺るぎない思い・・信頼と憧れ・・の狭間で、未だかつて経験したことがないくらい混乱し狼狽えていた。
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