恋人編 1

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「社長、今日の生ビール会6時半からですよ、ちゃんと参加して下さいね」 事務の女子社員から、釘を刺されると「わかってる」と苦笑しながら片手を上げ返事をした。 社長――と呼ばれた男は、瀬能京助。 京助は『瀬能建設』二代目社長で、現在32歳。 (地元ではそれなりに名の通った)――建築設計を手がける建設会社を経営している。 もともとは一級建築士の資格を持ち、現会長である父親の元で働いていたのだが、突然引退すると言い出した父親の後を仕方なく継いだのが今から2年前。 -――というのも6年前、孫のためにと建てた空手道場に外部から指導者を雇い、近所の子供たちを集めて空手教室を開いた父親が、建設会社の経営より道場で子供たちと過ごす方が面白いから、という理由で一線を退いた事は、京助は今でも納得できないでいる―― 現在は、父親の代からのお得意さんへの厚いアフターサービスや、地元に根付いた営業活動、インターネット広告・ホームページでの会社紹介により、新規の顧客獲得にも成功し、順調な経営を続けることができている。 従業員も京助以外に建築士が1人と事務員が3人、現場担当が5人という、少数ながらも質の高い技術を持った職人で成り立っていて、アットホームな雰囲気の職場環境は仕事にも好影響を及ぼし、出入りの激しい職種の割に、瀬能建設は(入社時期にバラつきはあるが)離職率0%で現在まで続いている。 「社っ長~、来週の段取り確認しておいてねー」 そう言って社長と呼びながらもやたら砕けた口調で話しかけてきたのは葛城翔太32歳。京助と幼馴染の翔太は瀬能建設の営業を担い、建築士としても優秀な人材だ。 「あぁ、わかった。部屋にいるから、怜が戻ったら寄越してくれ」 そう言って京助は社長室に入って行った。 京助は185センチの長身で適度な筋肉がついた引き締まった体躯、現場に出る事も多いためいつも日に焼けていて、切れ長の涼しげな目元には笑うと入る皺が人当たりの良さを表している。鼻筋がすっと通っていて、口元はいつも笑っているかのように口角が上がり、日に焼けた肌と対照的な白い歯が見える笑顔は、見る者を和ませ安心させる雰囲気を持っている。 対して翔太は、事務所で図面を引く事が多い為か肌は白く、体付きも決して小さくはないのだが線が細いからか華奢な印象で、銀縁眼鏡と細い顔の輪郭が神経質そうに見られがち。実はとても穏やかな性格の持ち主で、見かけで損することが多いと常々嘆いおり、彼の口癖は「これじゃ彼氏もできやしない」だ。 …彼は自他共に認める、生粋のゲイでもある。
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