感じる探偵 エピソード2 猫は知っている

7/19
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 内村はその質問が予想できていたかのように頭の後ろをポリポリかいた。 「感染しちまったかな。実はさ、片倉のマンションに侵入した三日ほど前に、久々にサウナに行ってね。そこで水虫をもらってきたらしい。すまん。足はちゃんと洗ったつもりだ。空き巣を辞めるって意味じゃないぜ。あ、そこ笑うところだったのになあ...」  内村は罪悪感からおどけてみせた。 「そうか。やっぱりな。でも安心してくれ。さっき薬を処方してもらったから」  内村は申し訳なさそうに頭を下げた。       四月十五日 木曜日  私は定時に仕事を終わらせ、捜索の経過の報告と、マツコさんの様子を見るため、アパートへ向かった。  アパートの三階のマツコさんの部屋のドアを遠慮がちにノックした。応答はない。留守だろうか?腕時計を見ると午後六時。買い物に行くには遅い時間のように感じられた。 「中村さんに何かご用ですか?」  突然、後ろから声を掛けられ、私は飛び上がるほど驚いた。  後ろに気難しい顔をした老年の男性が腕を組んで立っていた。 「あの、中村さんはお出かけでしょうか?」  老人は私を犯罪者でも見るような目をした。 「私はここの管理人だ。中村さんはここ二日ほど見かけてはいない。だから心配になってね。マスターキーでドアを開けようと思ってる」  管理人はキーをドアに差し込む。ギイイという耳障りな音を立てて、ドアが開いた。  管理人の後に続いて、私も部屋に入った。文句を言われるかと思ったが、なにもやましいことはしていないので、堂々としていればいい。 「中村さあん。いらっしゃいますかあ?」  返事がない。すると、部屋の奥からチヨが飛び出してきた。私はあっと声を上げそうになる。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!