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◇ダイニング◇
「ねぇ明ちゃん。今日の朝ご飯はなぁ~にぃ?」
自分は早々にテーブルに着き、
リビングで朝の情報番組を観ている母が、
僕の方へ振り返って尋ねて来た。
「クロワッサンに、厚切りベーコンを焼いたのと、
スクランブルエッグ。
それと半端だった野菜を全部入れたコンソメスープです」
僕が朝食のメニューを告げると、楽し気に甘えた声で言う。
「わーい♪ たっまご~♪
明ちゃんの作る卵料理はほんとに美味しいよねぇ~♪」
その笑顔に、心が暖かくなる。
「わったしぃー、コーヒーが飲みたいなぁ~♡」
「コーヒーぐらいは自分で淹れて下さいよ」
明が答えると、頬を膨らませて、剥れたように駄々をこね始める母。
「やぁーだぁ~。
明ちゃんが淹れたのが飲みたいのぉ~」
甘ったるい声を出しながら、僕に要求する彼女はまんま子供だ。
「それじゃあ、(銘柄は)何がいいですか?」
そして、彼女に頼まれてしまうと、
何でもしてあげたくなり、ついつい甘やかしたくなる。
「明ちゃんがいれたのなら、何でもいい」
「何でもいいなら、自分で淹れてくださいよ」
出来たばかりのスクランブルエッグを皿に盛りながら愚痴ると、
母はいつの間にか僕の後ろに立っていて、僕を後ろから抱きしめた。
「そーゆー意地悪なこと言わないのぉ~」
「火を使ってる時は危ないですよ」
僕は自分の母だというのに、
彼女に抱きしめられると、ドキドキしてしまう。
可愛さと美しさが同居した奇跡の様な容姿に、
豊かな胸とお尻で、性的な魅力に溢れた体。
何でもしてあげたくなってしまう、庇護欲を掻き立てる彼女の特性。
それらを前にすると、
どうしても一人の女性として、意識してしまう。
「(銘柄)何でもいいって言うなら、
自分でやっても変わらないでしょ?」
「うーそぉー。
明ちゃんが淹れてくれたのが絶対美味しいもん」
軽く焼いたクロワッサンと、厚切りベーコン、
スクランブルエッグにサニーレタスを付けて皿に盛り付け、
コンソメスープをカップによそると、
ご所望のコーヒーを淹れる為に、彼女を体から剥がした。
「サイフォンとコーヒーメーカーが勝手にやってくれる__」
「ねぇ、明ちゃん」
母の急な真面目なトーンの言葉に、
一瞬、僕の気持ちを悟られたのかとドキッとしたが、
「な、なんですか?」
「好きな子ができたんでしょ?」
彼女の発言から、勘違いに助けられたとホッとしながらも、
どこかモヤッともした。
「い、いないですよ」
「慌てちゃって怪しぃ~」
口ではそう言っても、彼女に本当のことなど言える筈もない。
僕が好きなのは目の前にいる人だなど、と。
「最近、一緒にお風呂も入ってくれないし」
「僕はもう高校生なんだから、それは当たり前でしょう」
彼女の裸を目の前にしたら、きっと僕は僕でいられない。
「親子なんだから、そんなの気にする方がオカシイでしょ」
そして、彼女は何時でも自由で、何時でも自分の価値基準で生きている。
そんな彼女はとても異性として魅力的だ。
そんな母に、親子だと言われると寂しさを感じる僕は……
……間違いなく異常者だ。
「馬鹿なこと言ってないで、食べますよ。母さん」
だから、僕は自分の気持ちに蓋をする為に敢えて言った。
「母さんなんて呼ばないでぇ~。ちゃんと名前で呼んでよぉ~」
そんな僕の気持ちを知ってか、知らずか、
甘えた声で彼女はそんなことを要求してくる。
「それじゃ、あかりちゃん。ご飯にしよ」
「うん、明ちゃん」
危ういバランスで存在していた僕等の関係は、
歪な感情を抱えながら、今日もいつも通りに朝食をとり始めた。
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