明とあかり

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◇玄関◇  その日、あかりの帰りは夜の11時を過ぎた。  こんな事は初めてだった。  だから、僕は出来る限りの笑顔で彼女を迎えた。 「おかえり、あかり。お疲れ様」 「…………うん。遅くなってごめんね」  少し酔っている感じのあかりに肩を貸す。 「そんなの全然いいよ。仕事でしょ」 「…………うん。それもある」  そんな言葉に、誰か男がいるのなら、  もっと早く言ってくれという感情が湧く。  その感情の中には怒りが多く、  そして、怒りを引き起こしているのは醜い嫉妬だった。 「長いの?」 「全然。正直、情とかあるわけじゃないから、さ」  でも、いつも太陽の様な彼女の弱々しい姿は、胸を締め付ける。 「夕食、せっかく作ってくれたのに……ごめんね」  僕の顔を視て、ポロリと涙が落ちた。  そんな彼女を見て、全てがどうでも良くなった。 「全然、そんなの気にしなくて大丈夫だから」  女手一つで僕を育て、その為に男と渡り合って仕事をしてるのだ。  きつくないわけがない。  それなのに、彼女は僕に愚痴一つ、零したことがない。 「ごめん、明」 「大丈夫だって、怒ってないよ」  そんなあかりには幸せになって欲しい。  だから、大丈夫…………この気持ちがあるうちは。 「理解のある息子で、なんて私は幸せなの…………。  ううぅーちょっと気持ち悪い~」 「待ってなよ、直ぐに水を持ってくるから」  そして、彼女はモテる。  彼女を欲してる男など幾らでもいる。 「ねぇ、あかり」 「ダメ」  僕もその一人だってだけだ。  でも、ただの欲望ってだけなら、どんなに良かっただろう。  僕は彼女の全部が欲しい。 「まだ何も言ってないんですけど」 「学校辞めて働くとか言うんでしょ」  彼女は普段のったりしている癖に、こういう時はすこぶる勘がいい。 「…………」  僕が台所に行こうとすると、 「ねぇ明」 「なに?」 「愛してるよ」 「わかってますよ」 「ぶー」  プクッと頬を膨らませたあかりは可愛かった。 「僕も愛してるよ、あかり」 「うん。じゃあ、水を持って来てよろしい」  そして僕は、ウォーターサーバーから水を出して、  あかりに持って行った。
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