明とあかり

4/10
前へ
/10ページ
次へ
◇玄関→お風呂場◇  最近は帰りが遅くなることが多くなった。  そして、そういう時は結構な量のお酒を飲んで帰って来る。 「今日はまた随分とご機嫌ですね」 「だって、お酒って美味しいんだもぉーん」  根っからの明るい性格のあかりだが、お酒に酔っている時は更にご機嫌だ。  そして、困ったことに妙に色っぽかった。  その姿は、僕の醜い嫉妬と劣情を強烈に掻き立てた。 「あんまり飲み過ぎないでよ?」 「そんな事言うなら、明が一緒に飲んでくれたらいんだよぉ。  一緒に飲もうよぉー♪」  甘えた声でそんな事を言いながら、  いつも通りに僕に絡みついて来た。 「僕は未成年ですよ、何言ってんですか」 「じゃあ、明は私にお酒を飲むなって言うのぉ?」  あかりの体温を感じながら嗅ぐ、  この、お酒とあかりの汗の匂いが混ざった香りが嫌いじゃない。 「違いますよ、そうじゃなくて、  飲んでもいいけど、ほどほどにしてって言ってるんです」 「どーしてぇ?」  顔を火照らせて、目を潤ませながらそう言うあかりは、  どうしょうも無い程に煽情的で、僕の欲望を駆り立てる。 「心配だからです」 「なんで?」  形が良く厚めの唇から紡がれる言葉は、  なにか、僕を魅了する魔法が懸かっているかのようだ。 「なんでって……家族だからでしょ?」 「じゃあ脱がせて」  そう言って僕は誤魔化した。  そしてあかりは、僕から離れて、万歳をする。 「ど、どういう理屈ですか。もう、しょうがないですね。  でもスーツなんだから万歳は要らないですよ」  スーツのファスナーを下ろし、脱がせていく。  あかりが下着姿になり、  浴室に用意していたパジャマに着替えをさせようとすると、 「明ってさ。ホントに彼女いないの?」  急に真面目な顔になり、  じっと僕の目を見ながらそんな事を聞いて来た。 「いないよ」 「…………」  僕が答えても、あかりの言葉は無かった。  その沈黙に耐え兼ねて、僕は目を逸らした。 「あのさ。じゃあさ。  僕があかりに(お酒を)付き合ったら早く帰って来てくれる?」  そんな不用意な事を思わず聞いてしまった。  バツの悪さから目を逸らしていると、  何時の間にかあかりは下着も脱いでいた。 「ってなにスッポンポンになってるんだよっ!  下着の替えはここに持ってきてないよ」 「大丈夫。このままお風呂に入るから」  四十代が目前とは思えないスタイルに、  僕は目を向けられないままに言った。 「今の状態でお風呂は危ないよ」 「じゃ一緒に入ろっ♪」  そう言ってあかりは僕に抱きつき、服を脱がせようとしてくる。 「馬鹿言ってないの」 「だってぇー。うまく力が入らないから、体ちゃんと洗えないもん」 「そうだろうけど……そしたら朝入りなよ」 「やだぁ。もう脱いじゃったし、今入る。明と一緒に今入るぅー」  あかりは胸もお尻も大きい。  その分、体重もある。  多分、僕とどっこいか、僕の方が少し重いぐらいだろう。  だから、ごねられて暴れられると厄介だ。  それに裸のままで問答をしていたら、風邪を引かせてしまう。  そんな言い訳を自分にしながら、僕も服を脱ぎ始めた。 「明はアタシのこと嫌い?」 「何言ってんですか、そんなわけないでしょ」  思わず強い口調になる。  そうだったら、どんなにいいだろうか。  親子でなければどんなに良かっただろうか。    でも、親子でなければ、きっと彼女とは何の接点も無かっただろう。 「だって、お酒ダメ。お風呂もダメって言うんだもん」  彼女はどこまでも自分本位で身勝手で、奔放だ。  でも、そんなあかりを僕はたまらなく愛していた。 「……僕はあかりがしたいことで、ダメなんて言ったことはないよ」  小さな声でぼそりといった。 「私の事、独りにしたらやだよ?」 「…………うん」  そして、彼女への愛が深くなるほど、  僕は自分が黒く染まっていくような気がした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加