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◇玄関→お風呂場◇
最近は帰りが遅くなることが多くなった。
そして、そういう時は結構な量のお酒を飲んで帰って来る。
「今日はまた随分とご機嫌ですね」
「だって、お酒って美味しいんだもぉーん」
根っからの明るい性格のあかりだが、お酒に酔っている時は更にご機嫌だ。
そして、困ったことに妙に色っぽかった。
その姿は、僕の醜い嫉妬と劣情を強烈に掻き立てた。
「あんまり飲み過ぎないでよ?」
「そんな事言うなら、明が一緒に飲んでくれたらいんだよぉ。
一緒に飲もうよぉー♪」
甘えた声でそんな事を言いながら、
いつも通りに僕に絡みついて来た。
「僕は未成年ですよ、何言ってんですか」
「じゃあ、明は私にお酒を飲むなって言うのぉ?」
あかりの体温を感じながら嗅ぐ、
この、お酒とあかりの汗の匂いが混ざった香りが嫌いじゃない。
「違いますよ、そうじゃなくて、
飲んでもいいけど、ほどほどにしてって言ってるんです」
「どーしてぇ?」
顔を火照らせて、目を潤ませながらそう言うあかりは、
どうしょうも無い程に煽情的で、僕の欲望を駆り立てる。
「心配だからです」
「なんで?」
形が良く厚めの唇から紡がれる言葉は、
なにか、僕を魅了する魔法が懸かっているかのようだ。
「なんでって……家族だからでしょ?」
「じゃあ脱がせて」
そう言って僕は誤魔化した。
そしてあかりは、僕から離れて、万歳をする。
「ど、どういう理屈ですか。もう、しょうがないですね。
でもスーツなんだから万歳は要らないですよ」
スーツのファスナーを下ろし、脱がせていく。
あかりが下着姿になり、
浴室に用意していたパジャマに着替えをさせようとすると、
「明ってさ。ホントに彼女いないの?」
急に真面目な顔になり、
じっと僕の目を見ながらそんな事を聞いて来た。
「いないよ」
「…………」
僕が答えても、あかりの言葉は無かった。
その沈黙に耐え兼ねて、僕は目を逸らした。
「あのさ。じゃあさ。
僕があかりに(お酒を)付き合ったら早く帰って来てくれる?」
そんな不用意な事を思わず聞いてしまった。
バツの悪さから目を逸らしていると、
何時の間にかあかりは下着も脱いでいた。
「ってなにスッポンポンになってるんだよっ!
下着の替えはここに持ってきてないよ」
「大丈夫。このままお風呂に入るから」
四十代が目前とは思えないスタイルに、
僕は目を向けられないままに言った。
「今の状態でお風呂は危ないよ」
「じゃ一緒に入ろっ♪」
そう言ってあかりは僕に抱きつき、服を脱がせようとしてくる。
「馬鹿言ってないの」
「だってぇー。うまく力が入らないから、体ちゃんと洗えないもん」
「そうだろうけど……そしたら朝入りなよ」
「やだぁ。もう脱いじゃったし、今入る。明と一緒に今入るぅー」
あかりは胸もお尻も大きい。
その分、体重もある。
多分、僕とどっこいか、僕の方が少し重いぐらいだろう。
だから、ごねられて暴れられると厄介だ。
それに裸のままで問答をしていたら、風邪を引かせてしまう。
そんな言い訳を自分にしながら、僕も服を脱ぎ始めた。
「明はアタシのこと嫌い?」
「何言ってんですか、そんなわけないでしょ」
思わず強い口調になる。
そうだったら、どんなにいいだろうか。
親子でなければどんなに良かっただろうか。
でも、親子でなければ、きっと彼女とは何の接点も無かっただろう。
「だって、お酒ダメ。お風呂もダメって言うんだもん」
彼女はどこまでも自分本位で身勝手で、奔放だ。
でも、そんなあかりを僕はたまらなく愛していた。
「……僕はあかりがしたいことで、ダメなんて言ったことはないよ」
小さな声でぼそりといった。
「私の事、独りにしたらやだよ?」
「…………うん」
そして、彼女への愛が深くなるほど、
僕は自分が黒く染まっていくような気がした。
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