22人が本棚に入れています
本棚に追加
一緒に遊んでくれるお父さんではなかった。
遊園地や動物園に連れて行ってくれるお父さんではなかった。
友達に、何度悲しい嘘をついたか分からない。
子どもの目線にいたけれど、頼れるお父さんではなかった。
そのうち、私が子どもの目線ではなくなっていた。
その後の父を、何故思い出せないのだろう。
いつの間にか父は、家の中でぼんやりと座っていた。
澱んだ空気が見えるようで、ひたすら嫌悪した。
隣で泣き伏す姉を見遣る。
母の言う通り、先立つものがなければ立派な式は挙げられなかった。
私にも言えることだ。
学費も生活も。
父の帰りはいつも遅かった。
情けないところもあるが、父は懸命にこの家を支えていたのだ。
私が社会人になるのを待っていたみたいに、父は空っぽになった。
「お父さん……」
身体の底から振り絞ったはずの声は掠れて、手の甲に涙が落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!