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色々ありました。
「帰れ」
五年前のあの時、タカムラは羽扇を翳してそう言った。
半分透けた状態の父は、冥界から消えた。
一命を取り留めた父は、それなりに頑張って杖で歩けるようになった。
冥界での出来事は全く覚えていなかったようだ。
タカムラによれば、記憶には残らないようになっているらしい。
稀に三途の川やお花畑を見たと言う人がいるが、あれは勘の鋭い人への誤魔化しの術なんだとか。
それからは、少しの散歩と時代劇セレクションを観ることが父の日課になった。
家族中から反対されて煙草は止めたが、甘い物をバクバク食い、たまに酒も舐めていた。
再び倒れるまでの五年間、父の目は生き生きとしていた。
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