22人が本棚に入れています
本棚に追加
今度こそ、お別れです。
「大往生であるな」
羽扇を翳したタカムラは、微笑んでいるように見えた。
あれから五年経って、父は七十代前半。
現代ではそう長生きな方でもないかもしれない。
タカムラは、運命を見極めた後は必ず大往生だと言う。
羽扇を翳す彼の横顔は、いつも悔しいくらいに美しい。
「人生捨てたもんじゃなかったな。娘に見送ってもらえるんだから」
全く透けていない姿で、父は言った。
五年前みたいに、しょぼくれてはいなかった。
タカムラから見極めを受けた人は、誰もが晴れやかな顔をしている。
今度はきちんと伝えられた。
六文銭のことも、ありがとうも。
「まあ、みんな元気でやってくれよ」
それが最後の言葉だった。
曇天に吸い込まれる火葬場からの煙を、家族で見上げた。
いつかまた冥界の入り口で、私は家族を見送るだろう。
そうして、いつか私も老いて。
宣告を受ける。
とうの昔に人ではなくなった、老いることのない美しい存在に。
そこまで恐くはない。
タカムラの見極めならば。
少し。いや、かなり情けないところのある父が先に通った道であれば。
最初のコメントを投稿しよう!