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それでこそ父です。
初七日を過ぎた。
父は、渡し船で無事三途の川を渡ったことだろう。
もちろん、現代に本物の六文銭はない。また火葬が一般的であることから、今は紙に印刷されたものが主流になっている。
タカムラによれば、冥界は『意識』の世界。それで大丈夫なのだそうだ。
「世話のかかる人だったけど、いなきゃいないで寂しいねぇ」
呑気に笑う遺影に向かって、母がしんみりと呟いた。
口数が増えてきた。少しずつ落ち着いてきている証拠だと思いたい。
私も余裕ができてきた。
冥界へ行く前に、もう少し楽しんでおきたい。
甘いものを食って時代劇を観ていた父のように。
楽しく過ごすには先立つものも必要だ。
何気なく財布に手を伸ばす。
すぐに異変に気づいた。
お札が微妙に少ない。
そして。
残ったお札にくっついているのは、最中のカス──。
倒れたその日に、父が食べていた最中。
思い出す。
父は散歩のついでに、しょっちゅう甘いものを買ってきていた……。
「クソ親父! 覚えとけよ!」
〈了〉
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