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美しすぎる上司・小野篁です。
タカムラは、次にお連れした若い男性にも羽扇を翳す。
「帰れ」
その瞬間、男性は姿を消した。
俗世へと帰ったのだ。
こういう方は大抵、身体が透けて見える。魂が冥界へ来ていないからだ。
何らかの事情で、一時的に昏睡状態に陥ったのだろう。
こうして羽扇を翳して人の運命を見極める私の上司。
名を、小野篁という。
金色の獅子が織り込まれた深紅の着物を着流し、房のついた帯をダラリと垂らしている。
俗世でこんな風体の男がウロついていたら離れたくなるが、タカムラには良く似合う。腹が立つほどに。
高く結い上げた長い黒髪、透き通るように白い肌。
女性と見紛うような中性的な面立ちで、目だけは雄々しげな光を放つ。
およそ人とは思えぬが、平安時代には歴とした人として俗世に生きていたという。
「我を知らぬは恥であるぞ」
勤務初日に刃物のような目で睨まれて、スマホで調べた。
小野篁──。
平安時代の、超やり手の官僚だ。
お上にも平然と盾突き、流罪になるも見事復活を遂げている。
その激しい一面から『野狂』と渾名され、現在の単位で188cmほどの高身長でもあったとか。
人でありながら冥界へ通い、閻魔大王に仕えていたという信じ難い伝説まである。
真実だよ。私はスマホに向かって突っ込んだ。
この世界を見れば、何を言われても驚かない。
おっと、いけない。仕事をしなければ。
後ろに人の気配がする。
相手に安心感を与える営業スマイルを作って振り返る。
その結果、私はここにいる誰よりも取り乱すことになった。
「お、お父さん……!?」
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