父は未だ彷徨ってます。

2/2
前へ
/17ページ
次へ
 目の前にタカムラがいる。  花弁のような唇が開く。  ハッと意識を取り戻した。  真夜中。疲れが出た母は隣で寝入ってしまった。  暗い病室で、計器だけが規則的に動いている。  タカムラが夢枕に立った。  戻れと言っているのだ。  軽い寝息をたてる母の様子をもう一度窺い、相変わらず昏睡状態の父を見遣る。  「あんたのお陰で時間外労働かよ」  ため息をついて黒い鞄を取り上げると、私はその中に腕を差し入れた──。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加