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目の前にタカムラがいる。
花弁のような唇が開く。
ハッと意識を取り戻した。
真夜中。疲れが出た母は隣で寝入ってしまった。
暗い病室で、計器だけが規則的に動いている。
タカムラが夢枕に立った。
戻れと言っているのだ。
軽い寝息をたてる母の様子をもう一度窺い、相変わらず昏睡状態の父を見遣る。
「あんたのお陰で時間外労働かよ」
ため息をついて黒い鞄を取り上げると、私はその中に腕を差し入れた──。
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