再び冥界です。

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 これが父親とは。  情けなくなって、私は頭上に広がる黄金色の雲を見上げる。  「逝くも何も、見極めるのはタカムラ様だし」  投げやりに答えつつ、このまま逝っても別に支障はないと思い始めた。  父の身体は、まだ透けている。  「タカムラって何だ?」  「知らないのは恥だよ」  ここで、時間外勤務の鬱憤を晴らしておく。  定年を迎えた父は、急に動かなくなった。  初めの頃こそ、母は気晴らしにと色々な場所に誘ったようだ。  しかし、父は頑として動こうとしなかった。  母も辛かったのだろう。  次第に愚痴を聞かされるようになった。  母には悪いが、苦痛だった。一人で暮らす算段も始めていた。  アルバイト並みの給料でも、休まず仕事に出て遊びもしなければ、自然と金は貯まる。  そんな矢先に父が倒れた。  これが何を意味するか。  入院でベッド生活が長引くと、特に高齢の人はそのまま寝たきりになることが多いと聞く。  父は六十代後半だが、ここ数年の体力の衰えは著しい。  同じ状態になる可能性は大いにある。  介護の負担は、一気に母に降りかかることになる。  私にも。  どこまで振り回したら気が済むのか──。  しょぼくれた顔と目が合うと、無性に苛々した。  逝きたいなら逝けばいい。  喉に引っ掛かった言葉を押し込めて深呼吸をすると、私は父に告げた。  「一応、仕事だから。死んだ場合のことを説明しとくね」  
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