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死後こんな感じですが、いろんな説があります。
「まず、亡者になったら三途の川へ向かう」
「本当にあるんだな」
「そうね。初七日に川の畔へ到着よ」
事務連絡を続けようとすると、父が口を挟んだ。
「どんな道のりだ?」
「事前に伝えてはいけない決まりなの」
あからさまに嫌そうな顔をする父。
辛いリハビリをするくらいなら逝くと言っていたはずだが。
いつもそうだ。父は、面倒なことや先が見えないことを極度に嫌う。
「ともかく。川を渡る前に、秦公王様から殺生に関する罪について聞かれるから」
欠伸をする父。
話を聞けない。いつものことだ。
秦公王とは十王のうちの一人。十王は、仏が姿を変えた十人の王だ。
タカムラの元上司・閻魔もこの内の一人である。
秦公王の裁きによって、三途の川の渡り方は三つに別れる。
罪のない者は金銀七宝で飾られた立派な橋を、罪が軽い者は浅瀬を。
そして、重い罪を犯した者は激流の中を渡ることになる。
「俺は橋を渡れるな」
都合の良い部分だけ聞く父。
蚊を潰している時点でその橋は渡れない。
父よ。これほどまでに家族を振り回した罪は大きい。
濁流に飲まれるがいい……!
と、長々と説明してきたが、実はこれは平安時代までのことだ。
今は、六文銭さえ持っていれば漏れなく渡し船に乗れる。
現代の価値で約三百円。『地獄の沙汰も金次第』とは正にこのことだ。
敢えて父には伝えないことで、日頃のストレスを解消しておく。
「川の近くは、妖怪や鬼がいっぱいらしいから気をつけて」
「川を渡った後も、七日ごとに十王の裁きを受けるのよ」
追い討ちをかけて鬱憤を晴らす。
「そんなの嫌だ! やっぱり死にたくない。助けてくれ、祥子」
余計にストレスが溜まった。
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