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恋の味
「なるほど、失恋ですか」
「あなた、そんな簡単な言葉で片付けては駄目よ」
「いえ、そんな感じのものですから……」
結城さんはコーヒーカップを片手に苦笑している。俺は、その様子を並ぶテーブルを拭きながらこっそり眺めていた。
これまた父に借りた服を完璧に着こなして、結城さんはカウンター席に腰掛けている。足が長いなぁ……ちょっと羨ましい。
あれから妹の誤解を解いて、俺たちはカフェに場所を移した。いつもは受験というカードを掲げて手伝いなんかしない妹だが、今は何故か母の隣に陣取って動かない。きっと急に現れたイケメンが気になって仕方が無いのだろう。単純な奴め。
「で、どうしてその……捨てられてしまったんですか? 私から見ても貴方は良い男ですよ?」
「あはは……実は、彼女の病院に入院していた患者さんを好きになったと言われました」
「えっ?」
「確か、足を骨折していた患者さんです。彼女は偶然、その患者さんが困っている場面に遭遇したらしいんです。それが出会いで、何度か交流している間に彼女は彼に尽くすことへの喜びを覚えたと……僕みたいな彼女にまったく頼らない男は好みじゃなかったと、言われてしまって……」
「そんなことが……」
「僕が彼女の前で格好をつけすぎていたのも悪かったなぁ……人の心は難しいですね」
恋愛って大変なんだなぁ。
駆け引きとか俺には出来なさそう。そして、すぐにフラれそう。結城さんの話を聞いていて、そんなことを思った。
本当に、恋って甘酸っぱいのかな?
実際は苦くてどろどろして不味そうだ。
俺も、いつか味わう時がくるのだろうか。
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