恋の味

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「誰だって、好きな人の前では格好つけたいもんですがね」  父はそう言いながら、結城さんにサンドウィッチが乗った皿を渡した。戸惑った顔をする結城さんに、父は笑いながら言う。 「サービスです。これでも食べて元気になって下さい」 「いえ、お金は払います。待ってください、財布を……」  結城さんは足元の鞄から財布を取り出してそれを開いた。ちらりと見えた中身に俺は驚愕する。だって、そこには大量のお札が……! 何十万円あるんだろう!  父も目をぎょっとさせていた。その視線に気が付いたのか、結城さんは俯いて笑う。 「慰謝料……手切れ金を渡されてしまって。僕は要らないって言ったんですけど、無理矢理財布に入るだけねじ込まれてしまいました」 「お、おお……」 「残りは鞄に突っ込まれました。あはは、困りますよね。別れ際にこんなことをされても」  いったい、全部でいくらあるんだろう。結城さんには失礼だけど、ちょっと気になる。  ぱちん。  あ、目が合っちゃった。  俺は咄嗟にテーブルに視線を移したけど、結城さんが柔らかい声で俺の名前を呼ぶ。 「なぎさ君、おすすめのメニューってある?」 「えっ?」 「あっ、コーヒーゼリーソフトって美味しそうだなぁ。一緒に食べない?」 「お、俺ですか?」  一緒に食べるなら、妹みたいな若い奴と食べた方が良いんじゃないの?  そう思って首を傾げる俺に、結城さんは微笑む。 「さっきのお礼がしたいんだ」
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