恋の味

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 お礼?  家で紅茶を淹れたことだろうか。そんなこと、気にしなくてもいいのにな……。 「……それは、コーヒーゼリーの上にソフトクリームが乗ってるだけの平凡なデザートです」 「こらっ! 平凡とはなんだ!」 「だって、何の捻りも無いし」 「美味いんだよ! うちのコーヒーゼリーは!」  俺と父のやり取りを見て、結城さんはふふっと笑った。 「ますます気になりますね。それを二つ下さい」 「いえ、こんな馬鹿息子に食べさせなくても……」 「誰かと美味しさを共有したいんです。ね、なぎさ君、駄目かな?」  俺はちらりと父を見る。  父は溜息を吐いた後で「ご馳走になりな」と言ってデザートを作り始めた。 「なぎさ君、隣に座りなよ」 「あ、はい」  布巾を片付けて、俺は結城さんの隣に座った。普段、結城さんみたいな大人と食事をする機会なんて無いので、ちょっとどきどきする。ちらりと結城さんの方を見ると、彼は美味しそうにサンドウィッチを食べていた。ハムが挟んであるうちの定番のやつ。薄くケチャップが塗ってあって、それが隠し味なんだ。  最後のひとつを手に取った結城さんは、それを自分の口に運ぶこと無く俺に差し出した。 「あーん」 「え?」 「美味しいよ? あーん」 「え、あ……」  勢いに負けて俺は口を開けた。ゆっくりとそこにサンドウィッチが入る。美味しい。美味しいけど、何だか恥ずかしい……!  結城さんから視線を逸らして、俺はサンドウィッチをもぐもぐ食べた。その時、何故だかにやにやする妹と目が合う。奴は間違いなくこの状況を楽しんでいる。そう確信した。
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