恋の味

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「お待たせしました。コーヒーゼリーソフトになります」  父がすっとガラスの器を俺たちに差し出す。その底にはぎっしりとコーヒーゼリーが敷き詰められていて、その上には溢れそうなくらいの大きさのソフトクリームが乗っている。パフェをシンプルにしたような見た目だ。 「美味しそうだね。いただきます」 「……いただきます」  結城さんはスプーンでソフトクリームを掬って口に入れた。 「ふふ。冷たい」  そう言いながらも、嬉しそうに結城さんは手を動かす。これなら猫舌でも安心して食べられるから良かった。  俺もソフトクリームをひとくち食べた。甘すぎず、牛乳の味も濃すぎないこのソフトクリームは、父が分量を調整しているのか、業者から仕入れているのか、詳しいことは教えてもらえていない。俺が正式に継ぐようになったら教えてやるよ、と父は笑っていた。  コーヒーゼリーは手作りだけど、この分量も教えてもらえない。外部に漏れたらいけないからだそうだ。継ぐものしか知ることが出来ないって……何かのゲームの特別な呪文みたいだ。 「なぎさ君は、厨房に立たないの?」 「こんな半人前、まだまだそんなことは任せられませんよ」  結城さんは俺に訊いてきたのに、横から父が入ってきて代わりに答えた。 「我が息子ながら、料理が下手でね。困ったものです」 「そうなんですか? でも、なぎさ君は紅茶を淹れるのがとても上手でしたよ。また飲みたいなぁ……ね、なぎさ君」 「あはは……」  父の「半人前が何やってんだ!」っていう視線が突き刺さって、俺は苦笑した。けど、結城さんに褒めてもらえたことが、何故だかとても嬉しく感じた。
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