恋の味

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「ごちそうさまでした」  食べ終えた結城さんが丁寧に手を合わせて言う。そして、財布から一万円札を出してそれを俺に握らせた。 「今日はありがとう。楽しかった」 「あの、お釣り……」 「良いんだ。早く使っちゃいたいお金だし」 「……」  俺は何も言えなかった。父も黙ったままで、言葉を喉に詰まらせているみたいだった。嫌な思い出が詰まったお金、本人が使いたいと言うのなら止めない方が良いのかもしれない。けど――。 「それじゃ、お邪魔しました」  結城さんが立ち上がる。  駄目だ。  こんな脆い状態の人を放っておいたら――! 「あ、あの!」 「うん? どうしたの、なぎさ君」 「コート! コートは着ていないんですか?」 「えっ? コート?」  結城さんは自分の姿を見た。洗濯でぐちゃぐちゃになったスーツは家にあった紙袋の中。今、結城さんが着ているのは父の服。なら……! 「ああ、彼女……元彼女と会っていた店に忘れて来たみたいだ。取りに行かないと……」 「俺もついて行きます! 近くですか?」 「うん。駅前」 「雪が酷くなる前に行きましょう! ほら、早く!」  俺は結城さんの手を引っ張ってカフェを出た。外の風は冷たい。幸いなことに雪はまだぽつぽつといった勢いだったので、すぐに積もったり電車が止まったりといったことはなさそうで安心した。
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