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家に入って結城さんをソファーに座るように言ってから、俺はさっそくキッチンに向かった。アイスレモンティーなので、今日はグラスを使うつもり。高級な良いやつはこの家には無いけど。
ティーバッグをグラスに入れてから気が付いた。ガラスって、熱湯に弱いから割れてしまうのでは……?
目の前のグラスが耐熱性のものなのか分からない。仕方ないので、俺は先に紅茶をマグカップで作ることにした。ティーバッグを入れてからお湯をそそぐ。あっという間に温かい紅茶が出来た。
次に、グラスに多めに氷を入れる。カフェ用の透き通った氷じゃなくって、普通の冷凍庫の氷なのは申し訳無いがこれには目を瞑ってもらおう。念のため、マグカップの中の紅茶にも氷を数個浮かべて、それが溶けてから中身をグラスに移した。カラン、と涼し気な音が鳴る。夏だったら、ずっと聞いていたいなって思った。
最後に、レモンだ。レモンを切るのは今日が初めてだから緊張する。
ちょっと厚めに切って、それの真ん中に切り込みを入れてそっとグラスの淵に差し込んだ。あれ? 見栄え良く出来た気がする! 初めてにしては良いんじゃない?
「お待たせしました」
ストローを添えてグラスを結城さんに渡す。結城さんは、優しく微笑んだ。
「ありがとう。凄く素敵だね。これなら、お店に出せるよ」
「そんな、大袈裟です」
結城さんの笑顔を見ていると、何故だか心がそわそわする。何だか、不思議な人。もっと笑って欲しいって思わせるような、魅力があるんだ。
「いただきます」
結城さんがストローを咥える。上下する喉。カランと動く氷。
長い指が、淵のレモンを取って紅茶にそっと浮かべる。綺麗だと思った。どうしてだか、結城さんに触れられたレモンが、羨ましいと感じてしまった。
ぼんやりと結城さんを眺めていると、彼は小さく「美味しい」と漏らした。そして、グラスを愛おしそうに撫でる。
「美味しいよ、凄く! やっぱり、なぎさ君の紅茶は世界一だね!」
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