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結城さんは突っ立ったままの俺に、隣に座るように言って来た。俺はその言葉に従う。お互いの肩が当たるか当たらないか、そんな距離で俺たちは並んで座ることになった。
「あの……社長さんなんですよね?」
俺はずっと気になっていたことを結城さんに訊いた。彼は苦笑しながら頷く。
「父親の関連会社だから、そんなに威張れたものじゃないんだ。名前だけだよ」
結城さんが社長という名の役職であることを、なんとなく俺は家族の誰にも話せないでいた。
俺だけが、知っている秘密。
その言葉の響きが、どうしようもなく俺をそわそわさせる。
「それでも凄いですよ。社長さんなんて、滅多になれないし」
「なぎさ君だって、カフェのマスターの息子さんだろう? 将来カフェを継いで、そのカフェを全国チェーンにする立派な大人になるかもしれないよ?」
「そんな……俺はまだ、将来のこととか分からないし」
「そっか。夢はあるの?」
「夢……」
俺は考える。夢、か。昔はあった。小学校の四年生くらいまでは。
「小さい頃は、電車の運転手さんになりたかったなぁ……」
「おっ」
俺の言葉に結城さんが食いつく。
「良いね。どうしてなりたかったの?」
「電車って、どこへでも……どこまででも行けるものだと思っていたんです。山を越えて、海を越えて。いろんな国まで線路は繋がっているって思っていたから、世界を見て回れる運転手さんって格好良いなって……今思えば、勘違いしすぎて恥ずかしいですけど」
「そんなことないよ。ロマンチックで良いじゃないか」
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