二人だけの時間

4/7
前へ
/39ページ
次へ
 結城さんは突っ立ったままの俺に、隣に座るように言って来た。俺はその言葉に従う。お互いの肩が当たるか当たらないか、そんな距離で俺たちは並んで座ることになった。 「あの……社長さんなんですよね?」  俺はずっと気になっていたことを結城さんに訊いた。彼は苦笑しながら頷く。 「父親の関連会社だから、そんなに威張れたものじゃないんだ。名前だけだよ」  結城さんが社長という名の役職であることを、なんとなく俺は家族の誰にも話せないでいた。  俺だけが、知っている秘密。  その言葉の響きが、どうしようもなく俺をそわそわさせる。 「それでも凄いですよ。社長さんなんて、滅多になれないし」 「なぎさ君だって、カフェのマスターの息子さんだろう? 将来カフェを継いで、そのカフェを全国チェーンにする立派な大人になるかもしれないよ?」 「そんな……俺はまだ、将来のこととか分からないし」 「そっか。夢はあるの?」 「夢……」  俺は考える。夢、か。昔はあった。小学校の四年生くらいまでは。 「小さい頃は、電車の運転手さんになりたかったなぁ……」 「おっ」  俺の言葉に結城さんが食いつく。 「良いね。どうしてなりたかったの?」 「電車って、どこへでも……どこまででも行けるものだと思っていたんです。山を越えて、海を越えて。いろんな国まで線路は繋がっているって思っていたから、世界を見て回れる運転手さんって格好良いなって……今思えば、勘違いしすぎて恥ずかしいですけど」 「そんなことないよ。ロマンチックで良いじゃないか」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加