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「誰だよ、夜にゴミ出したのは……」
そう思って立ち止まってゴミ捨て場を見ると、そこには、男性型のマネキンが捨てられてあった。スーツを着たそれは、蹲るようにゴミ捨て場を陣取っている。この辺りに、アパレル関係の店ってあったかな……?
とにかく、これは町内会長さんに知らせないといけない。そう思い、俺はマネキンの腕を掴んで端に動かそうとした。だが。
「あれ? 柔らかい?」
まるで本物の肉みたいだ。掴んだ腕は、冷たいけれども柔らかい。
俺は、ぞっとして手を払い除けた。
「ま、待てよ……これ、マネキンじゃなくて……」
本物の、人間?
俺は急いで、横たわるその人の肩を揺らした。
「あの! 大丈夫ですか!?」
「……ん」
喋った!
生きてる!
やっぱり人間だった!
動かなかったものが急に声を発したのに驚いたのか、三羽いたカラスは一斉に飛び立った。俺は膝をついて、スーツのその人をさらに揺する。
「大丈夫ですか!? どうされたんですか!? 救急車を呼びましょうか!?」
「……いや、大丈夫」
どう見ても大丈夫じゃないその人は、ゆっくりと目を開けた。歳は三十代くらいだろうか。髪は黒いが瞳は茶色い。傍らに黒い鞄が落ちていたからそれを拾い、ゆっくりと起き上がるその人に渡した。すらりと高いその身長に少し驚く。
「あの、病院に行った方が良いのではないでしょうか? どう見てもしんどそうです」
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