二人だけの時間

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 結城さんはアイスレモンティーをひとくち飲んで、ふっと微笑んだ。 「僕はね、一時期ロックミュージシャンになりたかった」 「え!?」  俺は驚く。穏やかな見た目の結城さんからは、ロックミュージックは想像出来ない。 「今、似合わないって思っただろう?」 「いえ、そんなことは……」 「大学生の時にね、バンドを組んでいたんだ。一度だけだけど髪の毛を金色に染めたりしてね。あの頃は若かったなぁ……いろいろあって、解散しちゃったんだけど」 「音楽の方向性の違いですか?」 「違うんだ。ボーカルが在学中に起業してね、学業と音楽と会社を同時進行でこなすのは無理って話になったんだ。だから、仕方なく解散。ま、今でもメンバーとは仲が良いから、かけがえのない親友を得たって感じかな」  ふふって結城さんは笑う。結城さんはどんな大学に行っていたのかな。調べればきっとネットで出てくるだろう。俺とはレベルが違いすぎるだろうから、見るのはちょっと怖いけど。  結城さんはもうひとくちレモンティーを飲む。それから、はっとして俺を見た。 「なぎさ君、大学生だよね? 課題、出てるんじゃないの?」 「あ、出てますね。明日締め切りのレポートが」 「ごめんね! 僕みたいなのに付き合ってる時間なんて無いだろう? ああ……僕が紅茶が飲みたいだなんて我儘を言ったから……」 「いえ! 平気ですから!」  とは言ったものの、出ているのは俺が苦手な英語の授業のレポートだ。全文、日本語ではなく英語で書かなければならない。もう半分以上は仕上がっているけど、たぶん徹夜になるだろう。  レポートのことを考えたら喉が渇いてきた。俺も何か飲もうかな、と冷蔵庫に向かおうとした俺の腕を結城さんが掴む。驚いて硬直する俺。そんな俺に、結城さんは硬い表情で言った。 「僕が、手伝うよ!」
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