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「え?」
首を傾げる俺に、結城さんは力強く言う。
「我儘を言った僕がこんなことを言うのはおかしいけど、力になりたい」
「あ……お気持ちだけで十分です。レポートは、自分の力でやらないと」
「でも、友達と相談しながら書くこともあるだろう?」
「それは、ありますけど……」
「そんな感じで良いんだよ。僕が全部をやるわけじゃなくてさ、ちょっとしたアドバイスが出来たらな、って思うんだ」
そりゃ、手助けしてもらえるなら有難い。けど、結城さんの方こそ忙しいんじゃないのかな? うーん……。
俺は結城さんの目を見る。その瞳には、出会った時とは違って少し生き生きとした光が見えた。一緒にレポートをやって、結城さんが元気になるなら……。
「それじゃ、お願いします」
「任せて! 塾でアルバイトをしていた経験があるから心配は要らないよ!」
自信有り気に結城さんが言う。
「どんなレポート?」
「英語です。全文、英語で書かなきゃいけなくて」
「英語か。得意分野だよ」
にっ、と結城さんは笑う。その表情が格好良くて、俺は思わず見とれてしまった。変なの。男の人の顔を見て、こんなにどきどきするなんて。不思議だ……。
「さ、早く終わらせちゃおう」
「あ、はい」
俺は書きかけのレポート用紙を結城さんに見せた。結城さんの目が俺の文字をなぞる。睫毛、長いなぁ……。
「うん、ここまでは完璧だね! あとちょっと、頑張ろう!」
その言葉に俺ははっとして、慌ててテキストと筆記用具をテーブルに並べたのだった。
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