224人が本棚に入れています
本棚に追加
結城さんのおかげで、その日のレポートはとても良い評価を得た。結城さんは勉強を教えるのがとても上手い。きっと会社でも部下の人に対して、的確な指示を出しているんだろうな、って思う。
レポートの結果を結城さんに報告したら、彼は物凄く喜んでくれた。「なぎさ君が頑張ったからだよ!」って言って笑ってくれた。いきいきとした表情で。そのことが俺は嬉しかった。
それからというもの、結城さんと俺は時間を共有することが多くなった。
俺の家で結城さんはアイスレモンティーを飲む。飲みながら、俺のレポートを一緒にやる。不思議な時間。評価が上がるレポートに対して、俺が作るレモンティーは進歩していない。けど、結城さんは「美味しい」って言ってくれる。
どうしてだろう。
結城さんの笑顔は、俺の心を落ち着かなくさせる。
どきどきして、変な緊張を運んでくる。
こんなの、まるで、結城さんに夢中になっているみたいな……。
「なぎさ君。ここの文章なんだけど、こう直した方が良いと思うんだ……なぎさ君?」
「あっ! はい! そうします!」
ふわり。
結城さんは良いにおいがする。
出会った時とは大違いだ。あの時は、ゴミ捨て場で転がっていたから仕方が無いけど。
素敵な大人。
優しくて、頼りになって、ちょっと繊細……もっと、結城さんのことが知りたい。近付きたい。そして、触れ合って――。
「っ!」
「なぎさ君、どうしたの? 疲れた? 休む?」
邪な考えが浮かんでしまった俺を見て、結城さんは心配そうに俺の髪を撫でた。触っちゃ駄目! 今は、触っちゃ駄目!
「お、俺、眠気覚ましにコーヒー飲みます!」
どきどきと鳴る心臓を落ち着かせるために、俺はキッチンに逃げ込んで熱々のコーヒーをがぶ飲みした。
恋に味があるのなら、きっと言葉にならないくるくるした味。そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!