手のひらの温度

1/8
前へ
/39ページ
次へ

手のひらの温度

「明後日って時間ある?」 「えっ?」  レポートを完成させて一息ついた俺に、結城さんが訊いてきた。  明後日といえば、クリスマスイブだ。 「ありますよ。夜、遅くなっちゃうかもしれないですけど……」  イブとクリスマス当日は、言い方は悪いがカフェにとって一番の儲け時だ。父考案の「クリスマス・セット」は毎年好評で予約がすでに埋まっている。味見させてもらったことがあるけど、チキンの味付けは最高に美味しかった。さらに最後に出てくるケーキも甘くて口の中で溶ける。ちょっと値は張るけど、それだけの価値はあるメニューだと思う。  店が混むから、俺は手伝いをしなければならない。営業時間が終わるのは、いつもより遅い午後十一時くらいになるだろう。  そのことを結城さんに伝えると、彼はうーんと眉間にしわを寄せる。 「忙しいよね。ごめんね、変なことを言って」 「いえ。あの、明後日に何かあるんですか?」  結城さんにそう訊くと、彼はほんのりと頬を染めた。 「いや……なぎさ君と、その……イブとクリスマスを過ごしたいなって思って」 「えっ?」 「いや、ごめん……忘れて? ご、ごめんね。僕みたいな暇人が馬鹿みたいなことを言って」  過ごしたい。  俺も、結城さんと楽しい夜を。  そうだ! と、俺は結城さんに提案する。 「うちのカフェで夕飯を食べませんか?」 「えっ?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加