手のひらの温度

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 あっという間にイブになった。  俺はカウンター席で結城さんと並んで夕食を取っている。手伝いをしないイブなんて初めてで、どうにもそわそわして落ち着かなかった。  店内は混んでいるけど、皆しっとり恋人の時間を過ごしている人ばかりだし、出すメニューも決まっているから走り回ったりしなくてもいい。だから俺の代わりに手伝いをしてくれている妹の機嫌も良さそうだ。良かった。 「美味しいね、なぎさ君」 「は、はい」  俺は緊張で震える右手でフォークを握る。テーブルマナー、ちゃんと勉強しておくんだったな……。  緊張の原因はそれだけじゃない。  慣れた様子でナイフとフォークを使う結城さんのことが、とてつもなく大人に見えて、格好良くて……この人はどこまでも素敵な人だなぁと再確認したから。こんなに魅力的な人とイブを過ごせるなんて、俺はなんて贅沢な奴なんだろう。 「……」 「……? なぎさ君、どうかした?」 「あ、いえ! 何も!」  横顔を見つめているのがバレてしまい、俺は慌てて結城さんから視線を逸らした。  どうしよう。  ものすごく、どきどきする。  もう、目の前の料理の味なんて分からないや……。  それでも、どうにかデザートのショートケーキを食べ終わった。ああ、頭がふわふわする。これはきっと結城さんの過剰摂取。そうに違いない。 「……なぎさ君、なぎさ君」 「えっ、あ、はい!」  ぽんと肩に手を置かれて、俺の心臓が跳ねる。  俺は場違いなくらいの声のトーンで返事をした。結城さんがくすっと笑う。 「ね、この後時間ある? 良かったら僕の部屋で二次会しない?」 「……え?」
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