手のひらの温度

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「大切……」 「そう、大切。心の底から」  俺の背中に回された腕に力が入る。俺は身体の力が抜けてしまって、結城さんにふらっと凭れてしまった。 「僕ね、なぎさ君のレモンティーが好きだよ。とっても優しい味がする。心のこもった世界で一番の味」 「……」 「作り手の内面が表れるんだよ。なぎさ君はとっても優しいから、そういう味になる」 「俺、別に優しくなんか……」 「初めて会った日、僕を拾ってくれたじゃないか。普通、馬鹿みたいに潰れた酔っ払いなんて見て見ぬふりをされるのがオチなのに、なぎさ君は助けてくれた。それだけじゃない。いつも僕に優しくしてくれる」 「それは……」  結城さんと居たいから。  そんな下心があるから。  だから俺は優しいだけの人間じゃ無い。  そう言おうと思ったけれど、結城さんの方が先に口を開いた。 「実を言うとね、失恋の傷なんてとっくに癒えていたんだ」 「……え?」 「けど、言い出せなかった。言ってしまえば、もうなぎさ君に会うきっかけが無くなってしまうから」  俺は結城さんを見上げる。その頬は、ほんのりと赤かった。 「あの、結城さん……」 「ごめん。本当はもっとムードのある場所で伝えようと思っていたんだけど」  結城さんのくちびるが、俺の耳元で動く。 「大切だよ、なぎさ君。君のことが大切。その大切って意味は……好きってこと。好きだよ、なぎさ君。愛してる」
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