プロローグ

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 俺がそう言うと、男性は力無く首を横に振る。 「いいえ……病院は、嫌です」 「嫌って言っても……」 「僕は、平気です。どうも、お騒がせしました」  男性はふらふらと歩みを進める。駅に向かおうとしているのだろうか。けど、ここから駅までは歩いて十五分はある。  ひんやりと、頬に冷たいものが当たった。雪だ。これは、積もるかもしれない。 「……ああ、もう!」  俺はよろついている男性を追いかけて、鞄を持っている方の腕を掴んだ。男性は、驚いたような顔で俺を見る。 「……あの、何か?」 「俺の家、すぐそこなんで寄って言って下さい!」 「え……?」 「それが嫌なら近所の診療所にぶち込みます! 俺の家か、診療所か、どっちか選んでください!」  またいつどこで倒れるか分からない人間を放っては置けない。俺は真剣な目で男性に言った。 「……参ったな」  男性は、ふっと眉を下げて笑った。初めて見せる柔らかいその表情に、思わずどきりとする。よく見れば、この人は相当な美男子だ。 「それじゃ、お邪魔しようかな」  雪は降る速度を速めて、俺と男性を白く染めていく。  俺は男性の腕を掴んだまま、スーパーとは別方向の自宅へと足を進めた。  冬の寒い夜。  俺は、初めて生き物――成人男性を拾ってしまった。
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